優秀賞

タンザニア発“心地よい風”のサブスクで市場拡大と環境負荷軽減を両立

ダイキン工業株式会社(大阪府)

エアコン普及率が1%にとどまるタンザニアでのエアコンのサブスクリプションサービス。低廉な初期負担で省エネ型エアコンの利用が可能。利用プランは、1 日、1 週間、30日の3 種類。スマートフォンでエアコンを操作。モバイルマネー技術(スマホで送金可)を活用し、料金回収機能を組み込む。据付工事の品質確保に向けて、職業訓練学校と連携し空調技術者の育成も行う。

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  • 心地よい風を届ける新たなサービスの創出。途上国の経済と環境の持続性を同時に考慮したソリューションとして、エアコンを売るのではなく、心地よい風をサブスクリプションで届ける仕組みを構築。
  • 現地の職業訓練学校と連携して人材育成を行うとともに、現地の文化やニーズを利用者の声を通じて把握し、サービスの利用状況をITでリアルタイムに可視化。サブスクユーザーの行動を把握して、サービスを改善。CO2の削減効果や消費者の信用能力も数値化され、途上国ビジネスでの展開方法の新たな可能性を示唆。
  • 発展途上国の社会課題を日本の優れた技術と現地に適したサービスで解決する取り組み。環境性能の高い製品の普及と冷媒回収をサービスとして実現することは、環境問題の解決にも大きく寄与するものと期待。

世界各国で事業を展開する空調機・化学製品メーカー

2020年9月、タンザニアのダルエスサラームに事業会社(Baridi Baridi Inc.)*1を設立。2021年4月より、同地にてエアコンのサブスクリプションサービス(サブスク)の申込受付を開始。7月に初期ロット90台の設置を完了。10月より本格的に事業を開始。契約台数は約400台(2022年6月現在)。タンザニアの経済中心都市であるダルエスサラームは、人口倍増が予測(500万人→1,000万人)されており、今後の経済成長に伴うエアコン市場の拡大が期待されている。

大学、ベンチャーとの協業検討が起点

2018年に東京大学と締結した産学協創協定が起点となり、同大発のベンチャーであるWASSHA社(タンザニアでランタンのレンタルなどを展開)とともにタンザニアでの新たなサービスの検討を開始。エアコンのサブスクに着目し、2019年11月から3カ月間、ダルエスサラームで実機を設置し事業性を検証。実証実験を通じて、薬局、飲食店などの小規模店舗での需要が明らかとなる。エアコンがあることにより客数や滞在時間に好影響を与えることが判明する。

タンザニアのエアコンの実態

10台中7台が使用されない現地のゾンビエアコン

エアコンの据付を行うのはフンディ(fundi)と呼ばれる修理工であり、工事品質は低く、初期不良も多い。故障した場合でも、腕の良い修理工は限られ、きちんと直らない。また、購入されるエアコンの多くは格安型であり電気代がかさむ。このため、エアコンをせっかく買っても電気代がかかるという理由から使用されていない。現地での実態調査によれば、10台中7台のエアコンが使われていないか壊れている状況(ゾンビエアコンと呼んでいる)。同国でのエアコン市場は、工事品質面で課題を抱える。

インバータ機能付き省エネ型エアコンのサブスク

利用プランは、1日、1週間、30日の3種類。1日の場合の料金は150円ほど(前払方式)。初期費用として据付工事代が必要。WASSHA社が持つモバイルマネー技術(スマホで送金可)を活用し、料金回収機能を組み込み事業化する。ユーザーは、スマホでエアコンを操作する(ON/OFFなど)。

安いエアコンしか売れない国で、高価なエアコンを投入

タンザニアでのエアコンの普及率はまだ1%。同国のエアコン市場はインバータ機能を搭載しない格安型が大半。 エアコンは、まだ高価な商品であり、多くの人にとっては購入が難しく、購入できる人であっても廉価なエアコンしか買えないのが現状である。

半分以下の電力消費量の削減効果

実証実験時、薬局のエアコンに電力量計を設置し実測(15~24時)したところ、電力消費量が56%削減される。年間に換算すると、300$程度の電気代の節約が期待される。なお利用するにあたって、保守・管理サービスでの追加負担は生じない。

電気代、故障修理も考慮するとサブスクが経済的

サブスクを2年弱使い続けた場合と格安型のエアコンを購入した場合を比較すると、総費用は同程度。エアコン購入のほうがコストを抑えられるように見られるが、長期に使用する場合、省エネ型ではないことにより電気代がかさむことや、故障による修理代が生じる場合も多いため、格安型購入の方が結局は高くつく場合が多い。販促にあたっては、省エネ性能をアピールしている。

タンザニアの空調業界の再デザインへの挑戦

日本やアフリカ市場に投入する機器を生産しているインドで長年蓄積してきたモノづくりの力、据付工事の品質向上(日本製の良質な工具の使用など)、修理技術者の育成、WASSHA社が有するスタートアップとしてのスピード感や現地での経験、これらが組み合わさったハイブリッドなビジネスエコシステムが生成されている。これらの取り組みを通じて、タンザニアの空調業界の再デザインに挑戦している。サービス解約時には機器を撤去・回収し、冷媒も全量回収し再使用する。

多様な就業機会と雇用の創出

従業員72名のうち、タンザニアでの雇用は64名と、組織も拡大してきている(2021年9月現在)。月1回、フィルターダダ(dada)*2と呼ぶ女性が、フィルターの清掃と水洗いを行うクリーニングを行っており、砂塵によるフィルター詰まり問題に対応している。

サブスクの仕組み

空調技術者の育成にも取り組む

現地の職業訓練学校(エアコン科あり)の卒業生を採用するとともに、同校と提携し授業カリキュラムの作成などを通じて空調技術者の育成にも取り組んでいる。
*1 Barid(i バリディ)はスワヒリ語で「冷やす」、社名である Baridi Baridiは「冷え冷え」という意味。
*2 dada とは、スワヒリ語で「お姉さん」という意味

組織データ

  • 組織名

    ダイキン工業株式会社

  • 創立年月日

    1934年(創業 1924年)

  • 業種

    製造業(空調機器ほか)

  • 本社所在地

    大阪府大阪市

  • 従業員数

    97,476名

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